概要
日本においては、最近になって決済が現金払いからスマホのQRコードやクレジットカードのタッチ決済に変わっていると感じていることでしょう。現金決済のみの店もだんだん少なくなりました。財布を忘れても心配がなくなるとともに、いちいち現金を数える手間から解放され、利便性が高まったと考える生活者も多いことでしょう。
スマホを出してのQRコードやクレジットカードのタッチ決済方法は、中国では既に時代遅れとなっています。現在では手ぶら決済が主流となっており、都市部では広く利用されています。具体的な事例をご紹介します。
目次
手ぶら決済とは
中国では顔認証決済と手のひらが決済が普及しています。顔認証決済においては決済のたびにAIが自動的になりすまし防止のチェックを幾重にも行っています。
「スマホをいつも持ち歩いているから、手ぶら決済なんていらないのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、「手ぶら決済」ならではのメリットがあります。例えば、スマホのバッテリー切れや地下などの電波の状況が悪い場所でも決済が可能です。また、スマホを持ち込めないような場所(学校など)においては現金に頼らずに買い物ができる利便性があります。
顔認証支払い
顔認証決済は、AI、生体認証、3Dセンシング、ビッグデータを用いた新しい決済方式です。利用者は一回顔画像を登録することで、スマホなしで顔認証のみで決済を完了させることができます。
また、AIが決済の際にセキュリティの安全性を自動的に判断します。いつも通っている店であればすぐに決済が行われますが、久しぶりに使う店や大きな金額の場合は、スマホ番号の入力を促すなど、本人性確認多重化が行われます。ほかにも「まぶたきをする」、「口を開ける」などの動作が要求されます。従って、寝ているときに他人に盗撮されなりすまされる心配が無くなります。
便利性と安全性を兼ね備えています。
顔認証の途中でスマホ画面の色が変わり、人への反射により偽造防止
出典:腾讯云助中国工商银行上线新一代人脸核身系统,让用户优雅“刷脸” | 每经网
手のひら支払い
手のひら認証技術は、手のひらの静脈パターンを読み取る生体認証技術です。静脈パターンは外部から認識できないため、偽造されにくいという安全性も持ち合わせています。
日本では手のひら認証を過去に導入した事例がありますが、専用端末が必要になるなどの理由から現在ではほどんど廃止されています。
顔認証を導入するに当たってハードルになる点は、個人情報プライバシー保護やセキュリティ問題となります。中国においては手のひら認証の方が顔認証よりも利用者となる一般市民にとって受容度が高く、プライバシーにおいても配慮されていると考えられています。また、中国の「金融技術認証センター」から認証を受けており、利用者は手のひら決済の信頼性が高いと感じ、安心して利用することができています。
初回ログインの様子
出典:微信刷掌支付: 轻松挥手完成支付 – Tencent 腾讯
手ぶら決済の事例
中国で実際に使われている事例を紹介しましょう。
地下鉄乗車の事例は顔認証と手のひら認証の二つとも使われています。従来のICカードやスマホのQRコードをかざすことで改札を通過する方法に比べ、手ぶら認証はデバイスが不要なため、特に手荷物が多い場合やスマホの電池が切れた際にもスムーズに利用できます。
日本と異なり、中国の地下鉄はICカードよりスマホのQRコードの方が普及していました。地下鉄に乗車する際には、スマホの通信状況やQRコードの読み取りに時間がかかることが多かったため、電波に影響なく、スムーズに改札を通過する顔認証技術や手のひら認証技術が普及しました。
「顔認証」の地下鉄乗車
成都の地下鉄システムでは、マスク着用の判別機能を備えた顔認証技術が導入されました。これにより、利用者は改札口で顔をカメラに向けるだけ非接触にゲートを通過できるようになりました。
「顔認証」が使われている成都の地下鉄システム
マスクのままも認証可能
顔認証によって改札を通過するため、カードや切符を取り出す手間が省け、改札の通過がスムーズになりました。また、利用者が誤って改札を通過してしまった場合でも影響はなく、アプリからの通知機能により修正が可能なため、安心に利用できます。
「手のひら決済」の地下鉄乗車
中国の都市部においては地下鉄乗車に「手のひら決済」が導入されました。この決済技術はIT大手のテンセントが開発し、深セン市で試験運用を経て、現在は北京でも正式に開始されています。
初回に手のひら決済を使うためには、利用者が一度専用の登録端末で手のひらをスキャンし、WeChat Payアカウントに登録する必要があります。初回の登録後は、利用者が駅の改札口に設置された手のひら認証端末に手をかざすだけで、瞬時に認証され自動的に改札が開きます。
「手のひら認証」が使われている地下鉄システム
出典:微信刷掌支付: 轻松挥手完成支付 – Tencent 腾讯
「手のひら決済」コンビニやショッピングモール、モバイルバッテリーの貸し出し
2022年より深セン市内で試験運用が行われていた「微信刷掌支付」(WeChat Pay 手のひら決済)は2023年正式運用が開始されました。中国初の手のひらのみで決済が完了するシステムであり、決済システムが広東省のセブンイレブンや深セン市のショッピングモール「深セン海岸城」で既に導入されています。
世界初「手のひら認証」支払うモバイルバッテリー貸し出し
出典:微信携手街电推出刷掌租借充电宝 已在深圳落地-移动支付网
2023年9月5日には手のひら決済機能が正式に稼働し、広東省内の1,500以上のセブンイレブンや一部のモバイルバッテリーレンタルサービス「街电」を提供するAnkerのステーションでも利用が開始されました。これにより、スマホや現金を持たなくても、手のひらだけで簡単に決済ができるのです。
音声認識決済
話すだけで決済ができるという音声認証決済技術が注目されています。音声認証決済とは、ユーザーの声を認識し、支払いを行うシステムです。
声紋認証と音声認証の違い
まず、音声認証決済に関連する「声紋」と「音声」の違いを明確にしましょう。声紋は個人の声の特徴をデジタル化したもので、声の高さ、強さ、スピード、抑揚、イントネーション、感情などを含みます。このため、声紋はまさに「声の指紋」とも呼ばれ、個人ごとに唯一無二のパターンを持っています。一方、音声は声紋を含むすべての音情報を指し、話速や文脈など広範な情報を持ちます。
声紋認証は、声の特徴を声紋として捉え、それを認証に用いる方法です。高い認証精度を持つ一方で、声紋パターンの取得方法によりプライバシーの問題が生じる可能性があります。対して、音声認証は話された音情報を基に認証を行う方法であり、取得が簡単でプライバシーへの懸念が少ない特徴があります。しかし、認証精度が声紋認証に比べて低いため、セキュリティ面での配慮が求められていました。
更に現在では、AI技術の発展により音声データの合成が容易になり、3秒程度の録音データがあれば合成音声が生成が可能となりました。そのため音声認識決済は更にセキュリティ対策が必要となり、ダブルチェックや少額な場面で利用することが主流となりました。
支払いプロセス
アリババ集団が「サービスアジア地域展開計画」を発表した際、アリペイが「バリアフリー支払い」サービスをリリースしました。その一部に「音声認識」決済が採用されました。「音声入力での支払い金額入力」、「音声による支払い状況の通知」、「声紋による高速支払い」の3つの機能です。それぞれの機能について詳しく見てみましょう。
1. 音声入力で支払い金額を入力:
QRコードをスキャンした後、支払い金額を音声で入力し、確認ボタンをクリックするだけで完了します。この方法は、従来の文字入力に比べて4倍も速いとされています。
2. 音声による支払い金額の通知:
支払い金額を音声で入力し、受信者の名前や金額、支払い方法を音声で確認し、支払い完了の通知も音声で行います。視覚障害者にとって特に便利な機能です。
3. 声紋による高速支払い:
「パスワードなし支払う」機能を有効にすると、支払い金額を音声で入力し、声紋を使用して身元を確認し、高速に支払うことができます。
中国においては珍しい虹彩決済
虹彩認証は中国のキャッシュレス決済サービスにおいて、まだ広く普及していない技術の一つです。
虹彩決済とは
NEC 虹彩認証によると
「虹彩とは、黒目の内側にある瞳孔の周りのドーナツ状の部分を指します。個々人で固有のパターンを持ち、生涯不変と言われています。また、角膜に覆われて損傷しにくいため、生体認証に適した部位です。
高精度・高速で、各種生体認証のなかでもトップクラスの精度を誇ります。
生涯不変と言われています。(保証するものではありません)
右目・左目が異なるので、それぞれの目で認証が可能です。
双子も識別することができます。
帽子・マスク・眼鏡・手袋着用でも、目さえ露出していれば利用可能です。
赤外線カメラを使用するため、夜間や暗い場所でも認証することができます。
デバイスにタッチする必要がなく、非接触で認証できるので、衛生的にご利用可能です。」
NECの虹彩決済
NEC Online TVによると
「NECの顔・虹彩マルチモーダル生体認証決済は、従来のキャッシュレス決済と異なりQR表示やパスワード入力が不要なため、大きな荷物を持っていても、両手がふさがっていても、スムーズに支払えます。
また、難易度の高い変装も、世界最高水準のNEC生体認証技術であれば的確に見破ることができます。」
まとめ
日本のキャッシュレス決済システムは、中国と比較してまだ発展の余地があります。中国は生体認証決済技術の導入が早く、都市部の大規模実装が行われました。一方、日本はID認識に生体認証技術がよく利用されますが、決済手段として取り入れるケースはまだ少ないです。また、中国の利用者数の多さが端末の普及ハードルを下げ、決済方法の進化を促進している側面もあります。
顔認証や指紋認証、音声認証などの技術を導入すれば、日本においてもより安全で便利なキャッシュレス決済方法を提供することができます。高齢者や障害を持つ人々も利用しやすいユーザーインターフェースの開発や、多重認証の普及を進めることで、誰もが安心して利用できる決済環境を実現することができるでしょう。
日本においては、生体認証端末の利用者数は比較的少なく、また決済業界において大手数社が寡占している状況ではないため、生体認証端末の投入は難しい状況があります。中国の生体認証技術の大規模導入事例は、日本における普及促進の参考にはなりますが、中国と同様の規模やスピードで導入が進むことは、業界構造や法律、文化などの違いから容易ではないことが予想されます。
記事参照元
人脸核身_身份认证__实名认证_实人认证-腾讯云 (tencent.com)
成都地铁可以刷脸乘车啦!具体攻略→_澎湃号·政务_澎湃新闻-The Paper
成都地铁刷脸乘车怎么用?(附操作流程)- 成都本地宝 (bendibao.com)
腾讯云助中国工商银行上线新一代人脸核身系统,让用户优雅“刷脸” | 每经网
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